『ファインダー』リリース記念 ノラx珀 特別対談インタビュー!
2021年6月5日YouTube投稿の「ショウニントウソウ」から始まった物語の第一章ラストとなる今作。『誰かに認められたい』、その願いを叶えることができずに閉塞感漂う街を彷徨い続けてきたノラとレイラが、ついに見つけ出した答えとは?
毎回異なる女性アーティストが担当するレイラ役。今回は5th Sg「イミテイション」以来2度目のコラボレーションとなるシンガーソングライター・珀を迎え、それぞれの個性を生かしながら、ノラとレイラの繊細な感情の機微を丁寧に歌い上げたロッカバラードになっている。共作で書き上げた歌詞についても詳しく語ってもらった。
- 前回の5th Sg「イミテイション」のコラボから約一年。それぞれこの一年を振り返って、どんな時間を過ごしてきましたか?
- ノラ ヨルマチとしては7th Sg「クウフク」で『名探偵コナン』のエンディングテーマを担当させていただいたことや、ボカロPノラのソロ作品として配信リリースした「Chase Me」でアニメ「レベル1だけどユニークスキルで最強です」のオープニングを担当させていただいたこと、そして8月27日にワンマンライブを開催したこと、この三本が特に大きいトピックだったと思います。
- 念願だったことがいくつも達成されましたね。
- ノラ はい。ヨルマチとしては、ノラとレイラと同じく一歩進めた一年になったんじゃないかなと思います。
- ワンマンライブから少し時間が経ちましたが、振り返っていかがでしたか?
- ノラ ライブ制作は半年くらいかけて物語を書くところから作っていったので(入場者限定特典としてライブのために自身が書き下ろした小説を配布)、文化祭当日みたいな(笑)、準備して準備してやっとお披露目するみたいな気分でした。「来てくれる人がいるんだろうか?」って内心めっちゃくちゃ不安だったんですけど、当日はたくさんの方にご来場いただいて、その場のグルーヴや空気を皆さんと一緒に作れたことはすごく嬉しかったし、これまでで一番達成感を味わうことができた一日でした。とても充実していたと思います。
- 聴いてくれる人がいないと、ヨルマチの物語は完成しないですもんね。
- ノラ そうなんですよ。わざわざ足を運んでくれる人がいる、“あなたがいる”ってことの重みを物凄く実感しました。
- そのライブを珀さんもご覧になられたとか。
- 珀 はい。いつも画面の向こうでしか見られないヨルマチの世界が目の前で広がっていて、会場に入った瞬間、異空間が広がっているような、とても素晴らしい世界観でした。いつか私も一緒にステージに立てたら嬉しいなって思いながら、観ていました。
- そんな珀さんは今年7月に1stアルバム『まだ誰一人と知らない話を』をリリースされて、発売記念のインストアイベントも開催されましたね。どんな作品になっていますか?
- 珀 ボーナストラックを含め14曲入りのアルバムで、新曲もたくさん書き下ろしましたし、既発曲をリアレンジしたバージョンも収録していて、私にとってこれまでの集大成でもあり、宝物のようなパッケージになりました。そのCDのリリースイベントとして初めて有観客ライブをさせて頂いたんですけど、そもそも私の曲を聴いてくれている人が存在しているのだろうかって。SNSなどにコメントはくれているけど、文字でしか知らないし。だから始まる前はとても不安でした。
- ノラ その気持ち、分かります!
- 珀 本番では私の背後から客席に向けて照明が放たれていたのでお客さんの表情が物凄く鮮明に見えて、初めて私の音楽を聴いてくださる方の存在を実感できました。
- ノラ 僕も会場中央の後ろの方で観覧させていただいたんですけど、すごく洗練されていて、音作りから演奏からとても高尚で、一つの芸術作品を観ているようでした。世界観もしっかり作れていて、オンラインじゃなくて現地で聴けて良かったなと感じましたね。めっちゃくちゃ楽しくて、久しぶりにすごくいいものを観させてもらったなという感想でした。
- 珀 うわ〜!! 泣いちゃう。始まる前は緊張しすぎて、「逃げたいよ〜」って大泣きしていたんですけど、ステージに上がる瞬間に自分の中でスイッチを入れるような感じで切り替えて、実はそこからのことは頭が真っ白でほとんど覚えていないんです。今回感想を聞かせていただけて本当に良かったです。ありがとうございます!!
- お互いのライブで刺激しあえたようですが、そんなお二人の二度目のコラボとなる「ファインダー」がリリースされます。8月のワンマンの本編最後にこの曲をボカロバージョンで披露されていましたね。
- ノラ はい。この曲実は「イミテイション」の直後くらいに作っていた曲なんです。「イミテイション」を作った時に「また一緒にやりましょう」って話をしていて、いつになるか分からないけど、ノラとレイラの物語をまた珀さんと紡いでいけたらなって朧げに思いながら書いていった曲だったんですよ。
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- ということは、デモ制作の段階で珀さんをレイラにすることをイメージしていたんですか?
- ノラ そうですね。その段階で確定していたわけではないんですけど、作っていたのがちょうど「イミテイション」直後でしたし、何となく珀さんの声のイメージで作っていた曲だったので、実際完成してみて「誰に頼む?」ってなった時にしっくりくるのはやっぱり珀さんでした。
- 珀 私が正式な依頼を受けたのは「イミテイション」直後よりもっと後だったんですけど、結構早い段階でノラさんの仮歌が入った1コーラスのデモだけは頂いていたんです。それを聴いて、「絶対私が歌いたい!」って思っていました。
- ノラ デモをお渡しした後、珀さんはアルバムの制作が入ったり、僕も「クウフク」の制作でいっぱいいっぱいになっていたりして、なんだかんだで延びてしまって、ようやく1年ぶりに再コラボが実現しました。
- 正式な依頼後は、どのように制作が進んでいきましたか?
- 珀 フルサイズのデモを頂いた際に、2番の歌詞を依頼されまして。
- ノラ そうそう! フルサイズを作った時に2番のA、Bメロ部分に歌詞がない状態、シンセメロだけ入れている状態のデモをお送りして、「歌詞を乗せてください」とお願いしました。
- どんな風に歌詞の内容を受け取って2番を書いていきましたか?
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珀
まず曲を聴いてパッと浮かんだのが、『ノラとレイラが今までの曲の中で色んな悩みや迷いがあった中、今作でやっと決意が固まって二人で手を取り合って街に繰り出していく、踏み出していく』というイメージでした。だからメインビジュアルのイラストのイメージ通りなんですよ。フルのデモを頂いた段階でこの絵はなかったんですけど、後で見せてもらった時に頭に浮かんだイメージとピッタリだったのでビックリしました。
ノラさんが1番の歌詞で韻を踏んだり、母音を合わせたりしていて、そういう部分は私も取り入れながら頭に浮かんだイメージを言葉にしていきました。一番気をつけたのは、『ヨルマチの世界を壊さないように』ということ。2番から突然「あっ、違う人が書いたな」ってバレバレだったらちょっとかっこ悪いし、曲全体の世界観を崩してしまうので、その部分は特に慎重に作っていきました。 - 2番を珀さんに書いてもらおうと思ったきっかけは何だったんですか?
- ノラ ヨルマチの曲って僕がこれまでずっと一人で書いているので、レイラとの二人の曲といってもやっぱりノラの曲になっちゃってるんじゃないかなと思ったんです。今作は、ノラとレイラが一緒に一つの方向を見据えてやっと動き出す、一歩踏み出せるという大事な節目の曲になるんですけど、その時にノラの視点だけでいいんだろうか? レイラ視点も入ったらこれまでの作品とは違うものができるんじゃないか?と考えるようになりました。また、「イミテイション」の時に「歌唱だけじゃなくて、制作も一緒にやってみたいね」という話をしていたので、「やるなら今しかない」っていうのもあってお願いしました。
- 今作はヨルマチの第1章ラストとなる作品ということですが、作詞にあたって大切にした点、また最初に出てきたフレーズは覚えていますか?
-
ノラ
今回、『発見者=ファインダー』というタイトルになっているんですけど、「ずっと探しているものってなんだろう?」っていうのはすごく考えましたね。
ヨルマチはこれまで「閉塞感」をテーマにしてきたんですけど、今作はノラとレイラが彷徨い続けながら、やっと自分の中で何か腑に落ちる部分を見つけたんだろうなっていう所を想定した作品になっているので、ヨルマチでは初めて「希望」「前向き」というキーワードを大切にしながら作っていきました。
最初に書き始めたのは、歌い出しの「動き出せFIND OUT」の部分です。「探し出せ!」「今探し出すんだ!」っていう思いを込めて。そして「答えなら全部そこにあったんだ」っていう、この冒頭の二つが一番始めに出てきたフレーズになります。「何か壁にぶつかってどうしようもなくなっている人たちの背中を押す」って言うとおこがましいんですけど、一緒に一つ抜けられるような楽曲にならないかなと思いながら作っていきました。 - 珀さんから上がってきた歌詞はいかがでしたか?
- ノラ いや〜実はこれ、一回も直してないんですよ。
- 珀 直しがなかったので、ノラさん私に気を遣ってリテイクがなかったのかなって心配していたんですよ。私はネガティブなので、すごく前向きな曲だったから大丈夫かなって少し不安だったんです。
- ノラ いやいや、もう〜すっごくしっくりきました。歌詞をみれば、深く受け取ってくださっているのは一目瞭然でしたし、これは相当読み込んでくれたんだろうなって。実は元々僕なりの歌詞はあったんですよ。
- 珀 えっ、知らなかった!
- ノラ あくまで仮なんですけど、あったんです。でももうこれを見ちゃったら僕の歌詞は入り込む余地ないなって。寄り添ってくれているので自分の歌詞のような気さえする、多分かなり気を遣って寄せてくれていて、それでいて珀さんらしさもあって、めっちゃくちゃいい歌詞になっていたので、本当に満足して、すんなり歌わせてもらいました。
- 珀 良かった!! ありがとうございます。
- ノラ こちらこそありがとうございます。1番の歌詞を意識してくれているのも伝わってきました。例えば「黒に黒を塗り重ねたって」という1番に対して、2番は「黒は黒 もう濁らないだろう」になっているんです。僕自分で書いた1番のここのフレーズも結構お気に入りなんですね。黒にいくら黒を塗り重ねても、頑張ってどれだけ書いても分からない、見えないじゃないですか。そういう所のアイロニーってことを書いたんですけど、それを「黒は黒 もう濁らないだろう」ってちょっと前向きに捉えてくれてる。1番に対してのアンサーみたいな形になっている、この秀逸さがすごいなと思いました。ここは特にお気に入りです。
- ヴォーカルレコーディングはどのように進めていきましたか?
- ノラ 僕が歌った仮歌に対して、珀さんにも全部通して歌ってもらって、使い所はこちらで選ばせてもらいました。仮歌といえど、ほとんど採用のつもりで歌ってはいたんですけど、送られてきた珀さんのヴォーカルデータを聴いた時に「『イミテーション』の時とやっぱり違う!」って感じたんですよ。元々すごく上手な方ですけど、さらに表情が豊かになっているというか、歌の解釈を声に乗せる技術が一段と上がっているのを感じて、「やばい!これは置いていかれてしまう!」って。だから、珀さんに合わせて工夫をしながら何度か歌い直しました。
- 珀 今作が前向きな印象の曲、決意が固まっている曲なので、前回よりも結構自我を出したんですよ。前回はユニゾンが多かったのもあって、完全にノラさんに合わせて歌っていたんですけど、今回は自分なりのレイラの個性を出させていただきました。
- ノラ 2パターン送ってくれましたよね?
- 珀 はい。完全にノラさんに合わせたバージョンと、私が完全に好き勝手歌ったバージョンと2つ送らせていただきました。
- ノラ 実際採用したのは、好き勝手歌ってくれた方なんです。
- 珀 だからノラさん大変だっただろうなって。ごめんなさいって思いながら。
- ノラ いやいやいや(笑)。歌が上手な方なので合わせてくれたバージョンもすごく良かったんですけど、この曲により合っていたっていうのと、レイラさんでありつつ珀さんの魅力が詰まっているなと思ったので、迷うことなくレイラさんが憑依した珀さんの自我バージョンを使わせていただきました。
- ミックス後の音源を聴いてどんな感想を持ちましたか?
- 珀 今回、掛け合いが多いんですよ。出来上がったものを聴いた時にA、Bメロは二人で会話しているような絵が浮かんできて、サビでグッと力強く二人で歩き出してるっていう、そんな印象に仕上がってるなと感じました。
- ノラ 実は珀さんのライブを観させていただいた後にミックスを変えたんです。その理由は、ライブでの歌声に圧倒されたんですよ。特にハイトーンの突き抜けるクリアな声が圧巻で。僕は男女で同じメロディ、同じ高さを歌うユニゾンが結構好きなので、この曲もその色を強く出してミックスしていたんですけど、ライブを観た時に珀さんの真髄はこっちじゃないなと思って、ライブから帰ってすぐにミックスのバランスを変えたんです。
- 希望を感じますよね。天から光が降り注いでくるような、優しさや、包容力を感じる声だと思います。
- 珀 本当ですか! ネガティブなのに(笑)
- ノラ 「大丈夫だよ、いけるよ」って根拠のない自信じゃなくて、ネガティブな部分も内包しているからこそ、包容力を伴う歌声になっているんでしょうね。そういう意味でも今回のレイラ役はやっぱり珀さんが適役だったなって思います。
- 二人の息継ぎの後に歌で始まる出だしから、「よし、行くぞ!」みたいな決意、勢いを感じました。
- ノラ あそこの息継ぎ、実は切ろうか残すか迷ったんです。最終的にあった方がいいと思って残したので、そういう感想をいただけるのはちょっと嬉しいです。
- 「退廃的なサウンドの中に、解放感のあるコード進行を混ぜてみたり」というコメントを読みましたが、こちらについてもう少し具体的に説明してください。
- ノラ 1つ目はDメロに関して。これまでのヨルマチのコード進行って、イメージとしては、のぼっていって、最後に落ちるんですよ。それの繰り返しだったんですけど、今作のDメロは、のぼっていったまま、伸ばして終わるっていうコード進行にしているんです。今作は二人が踏み出していくのをサウンドでも手助けしたかったので、普段のヨルマチではやらないけど、のぼりっぱなしのままにしているので、それによって開放的な聴き心地になっていると思います。2つ目は、DJのプレイでよくやるアプローチなんですけど、シンセのこもっていた音をちょっとずつクリアにしていくみたいな手法を結構多用しています。なのでサウンド的にも所々に「ファインダー」らしい、からきしではないけれど希望のメッセージを込めた音作りにこだわってみました。
- MVはどんな感じになりますか?
- ノラ 映像クリエイターのリッツさんにお願いしました。これまで同様、ぜんさいさんが描いてくださった一枚のイラストから世界観を広げていく動画を作っていただきました。
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- イラストに関しては何か事前にリクエストはしましたか?
- ノラ いつも通り僕から細かい発注はせず、楽曲を聴いてぜんさいさんの受け取り方で素敵なイラストに仕上げてくださいました。これまではノラとレイラが止まっている動きのないイラストだったんですけど、今回初めて躍動感のあるイラストになっています。タイトルの「ファインダー」は、「探索者、発見者、見つける人」を表すファインダーでありつつ、カメラのファインダーにもかけています。なので、イラストも背景がレンズの歪みを意識したデザインになっていたりして、MVもその辺りのストーリー性をなぞらえた作りにしてくれています。
- 第一章が今作で完結。となると、ここから先が気になってきますが!
- ノラ 一応構想は頭の中にあります。
- 珀 突然の新キャラ、ジョニーが登場したりして!
- ジョニー??
- 全員 (笑)
- でも、街を出たということで登場人物は増えてきそうですね。
- ノラ はい。予感はありますよね。それこそジョニーが出てくるかはお楽しみにして欲しいんですけど(笑)、少なくともここで二人は街を出て行く決意をして、世界が一気に変わるわけではあるので、これまでのヨルマチとは違う、新しいヨルマチをお届けできたらなと考えています。
- 珀 楽しみ!
- では最後に、お二人にとって現段階での「幸せ」ってなんですか?
- 珀 やっぱり音楽を聴いてくれる人がいるっていうのが何よりもの幸せです。新曲もそうだし、楽しみに待ってくれている人がいるという事実が本当に嬉しくて、デビュー前は自己満足で勝手に曲を作っているだけだったので、今でも私の音楽を楽しみにしてくれてるっていうのが信じられない気持ちもあるんですけど、ライブで皆さんの存在を実感しましたし、コメントなどでもいつも幸せを実感していて、それが今私にとっての一番の幸せです。
- ノラ ニュアンスはすごく近いんですけど、やっぱり自分が今歌っていられることなのかなと。元々僕は作詞作曲に関しても自分が歌いたいからやっている人間なので、自分一人で歌うことはできるんですけど、実際それを聴いてくれる人がいないと歌い続けられないじゃないですか。自分の思いを色んな人に届けようと思っても、それを受け取ってくれる人がいないと、しかも自分の時間を割いてまでわざわざ受け取りに来てくれる、そういう貴重な存在がないと僕らはこの活動を続けられないので、変わりなく音楽を作って歌える環境がある、これは何よりもの幸せだろうって思いますね。それこそまさに「ファインダー」の歌詞とリンクしますが、「答えはそこにあるんだろうな」って思います。
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Information
珀
Profile
ハク。2020年12月よりYouTubeにて音楽活動を開始。アニメ、漫画のキャラクターの新解釈をコンセプトに作詞・作曲・編曲・歌唱・MIXまでを1人で担うシンガーソングライター。
インスパイアを受けて独自の解釈を、楽曲の歌詞や展開、アレンジに巧みなまでに昇華させるそのセンスは「まるで原作のスピンオフを味わっているみたい…」と定評。
また、感情の機微を繊細且つ力強く表現する歌声は耳心地良く、より深く作品の世界へと惹き込んでくれる。